【徹底解説】SBI証券のPTSで100.5円が101円に?取得単価が切り上げ表示される理由と楽天証券との違い

【徹底解説】SBI証券のPTSで100.5円が101円に?取得単価が切り上げ表示される理由と楽天証券との違い

夜、仕事が終わってからスマホを開く。決算発表で動いた銘柄をPTSで拾う。指値は100.5円。無事に約定し、いい買い物をしたと満足して保有証券の画面を開く——ところが、そこに表示されているのは「101円」。

現在値は100.5円のまま。なのに評価損益はマイナス。買った瞬間に負けている。

「え、0.5円どこ行った?」

この違和感、PTSを使い込んでいる人ならほぼ全員が一度は通る道です。しかも厄介なのは、楽天証券で同じようにジャパンネクストPTS(JNX)を使うと、平均取得価額がきちんと小数点まで表示されるという点。同じ市場で、同じ価格で約定しているのに、SBI証券だけが切り上げる。これでは損した気分になるのも無理はありません。

先に結論だけ言ってしまいます。あなたは1円も損していません。そして楽天証券も、税金の計算では同じように切り上げています。違うのは「画面に何を出しているか」だけです。

とはいえ、それだけで納得できる話でもないでしょう。この記事では、SBI証券の公式資料と国税庁の通達を突き合わせながら、なぜ0.5円が消えたように見えるのかを、計算式・法令・呼値制度・投資家心理の4方向から解きほぐしていきます。読み終わる頃には、あの101円が「損」ではなく、むしろ「税務上ちょっと得な数字」に見えてくるはずです。

1. まず結論:画面の「101円」は約定単価ではなく取得単価

いちばん最初に押さえておきたいのが、約定単価と取得単価はまったくの別物という事実です。

約定単価とは、市場で売買が成立した値段そのもの。あなたが100.5円で指値を出して約定したなら、約定単価は文句なしに100.5円です。取引履歴を開けば100.5円と記録されていますし、後日引き落とされる受渡金額も100.5円をもとに計算されます。

一方、保有証券一覧やポートフォリオ、口座サマリーに並んでいる「取得単価」は、手数料などのコストを上乗せしたうえで、1円未満を切り上げて整数化した数字です。SBI証券は公式FAQで次のように明記しています。

特定預りなどで購入した場合、買付時の手数料などの費用を含めて計算した取得単価を、口座サマリーやポートフォリオ、保有証券一覧などに表示しています。そのため、実際に買付けた価格(約定価格)とは異なる金額が表示されます。計算した結果、小数点以下の端数が生じた場合、端数を1円に切り上げるため、それも要因になります。 (SBI証券 FAQ「実際に買い付けた価格より単価が高く表示されていますがなぜですか」)

つまり、100.5円という約定単価は消えていません。別の欄に、別の目的で計算された数字が並んでいるだけ。画面が嘘をついているのではなく、画面が答えている質問が違うわけです。

ちなみに、SBI証券では預り区分によって表示名が変わります。特定預り・NISA預りでは「取得単価」、一般預りでは「参考単価」。参考単価のほうは「お取引の条件によって任意に算出されますので、必ずしも一定のルールがないことをあらかじめご了承ください」と注記されており、性格がやや異なります。サジェストに「sbi証券 取得単価 参考単価」が並ぶのは、この二重表記に戸惑う人が多いからでしょう。

2. 取得単価はこう計算されている

2-1. 計算式そのものはシンプル

SBI証券が公式FAQで示している式は、驚くほど素朴です。

Copy(約定単価 × 株数)+ 手数料(税込) = 取得価額
取得価額 ÷ 保有株数 = 取得単価(小数点以下は切り上げ)

ポイントは2つ。手数料を取得原価に含めることと、最後に1円未満を切り上げることです。この2つが重なると、約定単価がきれいな整数であっても取得単価は1円高く表示されます。

SBI証券の公式計算例を引用します。

例)A株式(現物)特定預りで100円の単価で10,000株、買付し、110円で売却した場合(手数料はスタンダードプラン) 買付時の精算金額:(100円 × 10,000株)+ 535円 = 1,000,535円 取得単価:1,000,535円 ÷ 10,000株 = 100.0535円 →(小数点以下は切り上げ)101円

100円ちょうどで買っても、535円の手数料が乗った結果100.0535円になり、そこから切り上げられて101円。わずか0.0535円のはみ出しが、1円まで押し上げられる。この一点を見るだけで、切り上げという処理がいかに大胆かが伝わると思います。

同じくSBI証券のFAQには、複数回の売買を追った表も掲載されています(手数料は2019年10月1日時点のスタンダードプラン基準)。

約定日売買約定単価株数手数料保有株数取得単価
12月22日買付120円100株55円100株121円
12月25日買付115円200株55円300株118円
12月26日売却123円100株55円200株118円
12月27日買付110円300株55円500株114円

12月22日は(120円×100株)+55円=12,055円、これを100株で割ると120.55円。切り上げて121円です。12月25日は(12,055円+23,055円)÷300株=117.033円で、切り上げて118円。26日の売却では取得単価は動きません。そして27日、残存分の取得価額23,600円に新規の33,055円を足して500株で割ると113.31円、切り上げて114円になります。

移動平均で持ち値が更新され、そのたびに切り上げが入る。この繰り返しが、サジェストにある「sbi証券 取得単価が変わった」の正体です。

2-2. PTSの0.1円約定に当てはめてみる

では、本題のPTSケースを計算してみましょう。SBI証券は「ゼロ革命」により、インターネットコースのネット取引であれば国内株式の売買手数料が0円になります(PTS取引も対象)。手数料ゼロという、いちばんシンプルな条件で試します。

ケースA:100.5円で100株 取得価額は100.5円×100株=10,050円。10,050円÷100株=100.5円。1円未満を切り上げて101円

手数料は1円もかかっていません。それでも切り上げは容赦なく発動します。ここが「手数料のせいだろう」と考えていた人が引っかかるポイントで、手数料ゼロでも小数点約定なら切り上げは起きるのです。

このとき現在値が100.5円のままなら、画面上の評価損益は(100.5円−101円)×100株=▲50円。買った瞬間に50円の含み損が刻まれます。

ケースB:100.5円で1,000株 100,500円÷1,000株=100.5円 → 101円。含み損表示は▲500円。株数が10倍になれば、見かけの含み損も10倍です。

ケースC:100.5円で1,000株+手数料あり(スタンダードプラン) 約定代金100,500円は「20万円まで」の区分なので手数料115円。(100,500+115)÷1,000=100.615円 → 101円。実際に負担したコストは100,615円ですから、真の含み損は手数料分の115円。ところが画面は▲500円と表示します。差額385円が純粋に切り上げ由来の「見せかけの損」です。

ケースD:3,000.5円で100株 300,050円÷100株=3,000.5円 → 3,001円。含み損は▲50円ですが、投資額30万円に対して0.017%。ほとんど気になりません。

比べてみると一目瞭然です。切り上げの1円は、株価が低いほど重くのしかかる。 100円台の銘柄なら約1%、3,000円台なら0.03%程度。低位株を大量に持つスタイルの人ほど、この現象に敏感になるのは合理的な反応と言えます。

3. なぜ「切り上げ」なのか——法令と通達をたどる

「切り捨てや四捨五入ではなく、なぜ必ず切り上げなのか」。ここが最大の疑問だと思います。答えは税法にあります。

3-1. 出発点は所得税法施行令第118条

株式の取得費の計算方法を定めているのが、所得税法施行令第118条(譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等)です。条文はこう書かれています。

居住者が法第四十八条第三項に規定する二回以上にわたつて取得した同一銘柄の有価証券で雑所得又は譲渡所得の基因となるものを譲渡した場合には、(中略)総平均法に準ずる方法によつて算出した一単位当たりの金額により計算した金額とする。

要するに「同じ銘柄を複数回買ったなら、1株あたりの金額を総平均法に準ずる方法でならして計算しなさい」という規定です。SBI証券も楽天証券も、この条文に従って移動平均的に持ち値を算出しています。

ただし118条自体は、端数をどう扱うかまでは書いていません。

3-2. 端数処理を決めているのは租税特別措置法関係通達

端数の行方を定めているのが、租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-14「1単位当たりの取得価額の端数計算」です。

所得税法令第105条第1項の規定により計算された1単位当たりの取得価額又は所得税法令第118条第1項《譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等》の規定により計算された1単位当たりの金額に1円未満の端数(公社債は額面100円当たりの価額とした場合の小数点以下2位未満の端数)があるときは、原則として、その端数を切り上げるものとする。

明快です。1円未満の端数があれば切り上げる。四捨五入でも切り捨てでもなく、切り上げ。証券会社の裁量ではなく、国税庁の通達がそう定めているのです。

さらに特定口座については、租税特別措置法関係通達37の11の3-1が「取得の額の計算については、所得税法令第118条に規定する総平均法に準ずる方法による」と定めており、118条→通達37の10・37の11共-14という流れが特定口座にもそのまま適用されます。

3-3. 業界横並びになった経緯

もうひとつ、実務上のできごとがあります。楽天証券の公式ページには、こんな記載があります。

日本証券業協会から、「特定口座において株式等を譲渡した場合の1株当たりの取得単価等の計算方法」が通知されました。当通知に基づき、特定口座の取得費計算において、2007年1月4日以降に売却や出庫があった場合、円未満の切り上げを行った取得単価を用いています。(中略)従来は、円未満の切り上げを行なわず、小数点以下第4位まで保持した単価にて計算しておりました。

つまり2007年1月4日を境に、業界全体が「円未満切り上げ」で足並みを揃えたわけです。これはSBI証券固有のルールではありません。Yahoo!ファイナンスのQ&Aでベストアンサーに選ばれた回答も「これはSBI証券でなく全ての証券会社で採用しています」と述べており、実態と一致します。

3-4. 切り上げが投資家に不利かというと、逆

ここで発想を180度ひっくり返してみましょう。取得単価が高くなるということは、売ったときの譲渡益が小さく計算されるということです。

先ほどのSBI証券の公式例で確かめます。

  • 買付:100円×10,000株+手数料535円=1,000,535円
  • 売却:110円×10,000株、売却手数料640円
  • 税務上の譲渡損益:(110円−101円)×10,000株−640円=89,360円
  • 実際の手取りベースの損益:(1,100,000円−640円)−1,000,535円=98,825円

差額は9,465円。これは切り上げ幅(101円−100.0535円=0.9465円)×10,000株にぴったり一致します。そして税率20.315%を掛けると約1,922円。切り上げのおかげで、約1,922円だけ税金が軽くなっている計算です。

PTSの100.5円ケースでも同じことが起きます。100.5円で10,000株を手数料ゼロで買い、110円で売ったとしましょう。実際の利益は95,000円ですが、税務上は(110円−101円)×10,000株=90,000円。5,000円分だけ利益が圧縮され、税額はおよそ1,015円軽くなります。

画面上は「損した」ように見えて、財布の中身で見れば有利。切り上げは投資家から何かを奪う仕組みではなく、端数処理の方向を納税者側に寄せたルールなのです。この構造を知っている人たちが、年末に低位株を使った「損出しクロス」で節税を狙うわけですが、これについては後半で触れます。

4. 楽天証券では、なぜ小数点が見えるのか

さて、ここからが本題の比較パートです。

4-1. 楽天証券も税金計算では切り上げている

まず誤解を解いておきます。楽天証券が切り上げをしていないわけではありません。同社の公式ページにはこう書かれています。

税法上のルールでは、保有株式の平均取得価額(1株あたりの購入額)を算出する際、小数点以下を切り上げて計算します。(中略)実際のお客様の損益は小数点を加味した金額で精算されます。一方、「税法上の損益」は切り上げ計算のため、精算金額とは異なる損益が表示されます。 (楽天証券「【特定口座】小数点株価を考慮した実現損益の表示に対応」)

楽天証券も、譲渡益税の計算は切り上げ後の単価で行っています。年間取引報告書に記載されるのも切り上げベースの数値です。ここはSBI証券とまったく同じ。

4-2. 違うのは「表示の粒度」と「切替スイッチの有無」

では何が違うのか。楽天証券は、切り上げ前の小数値を画面に出す仕組みを別途用意しているのです。

楽天証券の平均取得価額の計算ルールは、手数料コースによって扱いが分かれます。超割コースなら手数料を含めて小数点第2位まで計算し、いちにち定額コースなら当日分は手数料を含めず小数点第2位まで計算する、という具合です。つまりデフォルトの表示が最初から小数第2位になっています。

さらに強力なのが、マーケットスピードIIやウェブの「実現損益」画面に用意された「平均取得価額小数表示」というスイッチです。オンラインヘルプの説明はこうです。

現物銘柄において、取得単価の切り上げを行わずに小数で算出した平均取得価額から計算される損益を表示します。表示される損益は実際の損益額に近くなりますが、税金計算上の実現損益とは異なります。

同社の告知ページには、この切替の威力を示す具体例が載っています。1万株を保有し、売却代金が1,008,214円だったケースです。

表示モード平均取得価額実現損益
税法上の損益(切り上げあり)100.3786円 → 101円1,008,214円 −(101円×1万株)=▲1,786円
実際の損益(切り上げなし)100.3786円1,008,214円 −(100.3786円×1万株)=+4,428円

同じ取引が、片方では1,786円の損、もう片方では4,428円の利益として表示される。実に6,214円の乖離です。楽天証券は「どちらも正しい、ただし目的が違う」と割り切って、両方見せる道を選んだわけです。なお、表示は小数第2位までですが、内部計算には小数第4位まで使われています。

4-3. なぜ楽天証券は切替機能を作ったのか

タイミングが答えを教えてくれます。この機能が発表されたのは2014年7月。同月22日からTOPIX100構成銘柄の呼値が細分化され、株価5,000円以下の銘柄で0.1円刻みの取引価格が登場することになった、まさにその直前でした。

小数点株価が東証にも上陸すれば、「約定単価と取得単価の乖離」が一般投資家の目に触れる機会が一気に増える。問い合わせも殺到する。そう見込んで、先回りして切替スイッチを実装した——という流れです。翌2015年2月にはマーケットスピードにも「平均取得単価表示形式の変更」として小数表示と整数表示の切替が搭載されました。

つまり両社の差は、技術力でも誠実さでもなく、UI設計の思想の違いです。SBI証券は税務上の正である整数値に一本化してシンプルさを取り、楽天証券は「実感に近い数字」も併記して納得感を取った。どちらにも理があります。

4-4. 「損した気分」になる根本原因

ここまで来ると、あなたの違和感の正体がはっきりします。

SBI証券の画面は、税務上の正しい数字を、たったひとつだけ表示している。 楽天証券の画面は、実感に近い数字をデフォルトにして、税務上の数字を別のボタンに隠している。

見えている数字が違うだけで、両社の口座で同じ日に同じ価格で買った株を同じ日に同じ価格で売れば、確定する税額は1円たりとも変わりません。

5. そもそも、なぜPTSでは0.1円の約定が起きるのか

ここで少し寄り道をして、「0.1円」という半端な価格が生まれる背景も押さえておきましょう。ここを理解すると、PTSという市場の面白さが見えてきます。

5-1. 呼値の単位という制度

株式は、好きな値段で注文を出せるわけではありません。価格帯ごとに「刻み幅」が決まっており、これを呼値の単位と呼びます。日本取引所グループ(JPX)が定める東証の呼値は次のとおりです。

値段の水準TOPIX500構成銘柄その他の銘柄
1,000円以下0.1円1円
3,000円以下0.5円1円
5,000円以下1円5円
10,000円以下1円10円

東証で0.1円刻みが使えるのは、TOPIX500構成銘柄(TOPIX100およびTOPIX Mid400構成銘柄)で株価1,000円以下の場合に限られます。それ以外の銘柄は1円刻みです。

5-2. PTSは刻みが圧倒的に細かい

一方、PTSの呼値はまるで別世界です。SBI証券のヘルプに掲載されている表を抜粋します。

基準値段J-Market(TOPIX100以外)X-Market/ODX(TOPIX100)
1,000円以下0.1円0.1円
3,000円以下0.1円0.1円
5,000円以下0.5円0.1円
10,000円以下1円0.1円
30,000円以下1円0.1円
100万円超100円1円

注目すべきは、J-Marketでは銘柄区分に関係なく3,000円以下まで0.1円刻みという点。東証なら1円刻みの銘柄でも、PTSに出せば0.1円単位で指値ができるのです。しかもX-MarketではTOPIX100銘柄に限り、株価が100万円を超えても1円刻みという極端な細かさが維持されています。

SBI証券自身も「PTS取引では取引所取引と比べ、呼値が最小10,000分の1となり、より細かい価格での注文が可能です」と説明し、取引所とPTSの価格差を使った裁定取引の例まで紹介しています。1,757.5円でPTSで買い、1,758.5円で取引所で売れば100株で100円——というあの図です。

呼値が細かいことは、PTSの最大の武器です。その武器を使った結果として、100.5円という約定単価が生まれ、そして税法の整数丸めとぶつかる。切り上げ表示は、いわばPTSの長所が生んだ副作用なのです。

5-3. 制度は今も動いている

ちなみに東証の呼値制度は2027年3月1日に大きく変わります。現行のTOPIX500構成銘柄という指数区分ベースから、銘柄ごとの流動性(STR=Spread to Tick Ratio)に基づいて呼値の単位を決める制度へ移行する予定です。将来的には、東証でも小数点刻みの対象銘柄が今とは違う顔ぶれになる可能性があります。

PTS業界そのものも流動的です。楽天証券は従来のジャパンネクストPTS(JNX)に加え、Japan Alternative Market株式会社が運営する「JAXPTS(JAX)」を取り扱うようになり、2025年9月1日からはJAXの夜間取引(17:00〜23:59)も開始しました。SBI証券のほうは、市場「PTS」を指定するとジャパンネクスト証券のJ-Marketに取り次がれ、「SOR」を指定すると取引所・J-Market・X-Market・ODX・SBIクロス(ダークプール)の5市場から有利な気配を判定して自動執行する仕組みになっています。

ここは見落としがちなポイントです。
SOR注文を使っている場合、市場を意識していなくてもPTSで約定することがあり、その結果として小数点の約定単価が生まれます。「PTSなんて使っていないのに小数点が出た」という人は、たいていSOR経由です。

5-4. 小ネタ:受渡日の表記が両社で違う

余談ですが、面白い表記の違いがあります。PTS夜間取引の受渡について、SBI証券は「約定日から3営業日目」、楽天証券は「約定日から起算して4営業日目」と案内しています。数字が違うので混乱しそうですが、楽天証券は約定日を1日目として数えているだけで、どちらも実質は同じT+3です。日中取引も同様に、SBIが「2営業日目」、楽天が「起算して3営業日目」で、いずれもT+2。証券会社ごとの表記の癖が出ていて、ちょっと味わい深いところです。

6. 「損した気分」の正体を心理面から分解する

ここまで理屈を積み上げてきましたが、それでもモヤモヤが残る人はいるはずです。理屈で納得しても、感情はすぐには追いつきません。その仕組みを言語化しておきましょう。

6-1. 参照点が勝手に書き換えられている

人は損得を絶対額ではなく、基準点(参照点)からの差分で評価します。行動経済学のプロスペクト理論が説明するとおりです。

PTSで100.5円の指値が約定した瞬間、あなたの頭の中の参照点は「100.5円」で固定されます。ところが画面を開くと、参照点が勝手に「101円」に上書きされている。自分で決めたはずの基準を、システムに書き換えられた——この主導権の喪失感が、実損よりも強い不快感を生みます。

6-2. 損失回避バイアスが50円を増幅する

同じ金額でも、利益の喜びより損失の痛みのほうが1.5倍から2.5倍ほど強く感じられる、というのが損失回避バイアスです。100株で50円という金額は、缶コーヒー1本にも届きません。それでも「マイナス」という赤字表示が目に入った瞬間、痛みは金額に比例せず立ち上がります。

6-3. 少額投資ほど痛みが目立つ

投資額が小さいほど、固定的なコストや端数の割合は大きくなります。100.5円の株を100株買った1万円の投資で50円といえば0.5%。同じ50円でも、100万円の投資なら0.005%です。少額から始めた人ほど切り上げの存在に気づきやすく、そして気になりやすい。「初心者ほど不安になる仕組み」になってしまっているのは、UI設計上のひとつの課題と言えるでしょう。

6-4. 情報の非対称も効いている

SBI証券のFAQには正確な説明が載っています。しかし、それは「探しに行った人だけが読める場所」にあります。保有証券一覧の取得単価の横に「※税法上の切り上げ後」と一行あるだけで、この記事に辿り着く人は激減するはずです。裏を返せば、それだけ多くの人が同じ疑問を抱えたまま検索しているということでもあります。

7. 今日からできる7つの対策

理解した先に必要なのは、実務です。感情に振り回されずにPTSを使いこなすための具体策をまとめます。

その1:正しい数字は取引履歴で確認する

保有証券一覧の取得単価は税務用の丸め値です。実際にいくらで約定したかを知りたいなら、必ず取引履歴(約定履歴)を開いて約定単価を確認してください。受渡金額も約定単価ベースで正しく計算されており、ここが狂うことはありません。

その2:自分用の損益台帳を作る

切り上げなしの「本当の損益」を追いたいなら、表計算ソフトで管理するのが最も確実です。記録するのは約定日、約定単価、株数、手数料の4項目だけ。取得価額÷株数を切り上げずに保持しておけば、楽天証券の「小数表示」と同じ数字が手元で再現できます。

その3:端数が気になるなら整数で指値を置く

PTSでも100.0円ちょうどの指値は当然出せます。0.1円刻みで有利を取りにいくか、精神衛生を優先して整数で置くか。ここは戦略の選択です。ただし、0.1円の差を取りにいけるのがPTSの強みでもあるので、封じてしまうのはもったいない面もあります。

その4:低位株では株数を意識する

切り上げ幅は最大でも1株あたり1円未満ですが、株数を掛けると効いてきます。100円台の銘柄を1万株持てば、見かけの含み損は最大で1万円近くになり得ます。低位株を大量に持つ戦略なら、この表示ズレを最初から織り込んでおくのが賢明です。

その5:SOR注文の挙動を理解しておく

PTSを指定していなくても、SOR注文なら自動的にPTSで約定することがあります。SBI証券のSORは取引所・J-Market・X-Market・ODX・SBIクロスの5市場から最良気配を判定します。「なぜか小数点になった」の多くはこれが原因です。市場を固定したいなら、注文時に市場を明示的に選びましょう。

その6:NISA口座では気にしすぎない

NISA口座の譲渡益は非課税なので、取得単価の切り上げが税額に影響することはありません。しかもSBI証券は「NISAの取得単価は一般預りの参考単価同様に付加サービスとして提供している」「あくまでもご参考の単価」と明記しています。加えて、NISA口座管理画面では同一銘柄でも年度ごとに取得単価を計算するため、ポートフォリオ画面の評価損益と一致しない場合があるとも案内されています。サジェストに「sbi 取得単価 おかしい nisa」が並ぶのは、この仕様差が原因です。

その7:節税目的の意図的な利用には慎重に

切り上げが譲渡益を圧縮する性質を利用して、年末に低位株のクロス取引で損失を作り出す手法は古くから知られています。ただしSBIネオトレード証券は「不公正取引」を解説するページで、譲渡益税の計算上、取得単価の切上げによる譲渡損の積み増しを行うクロス取引に触れて注意を促しています。制度の副産物を狙いにいく行為と、通常の投資の結果として端数が生じることは、まったく別物です。判断に迷う場合は、税理士など専門家に相談してください。なお、本記事は税務や投資の助言を目的としたものではなく、最終的な判断はご自身の状況に応じて行っていただく必要があります。

8. よくある疑問Q&A

Q1. これはバグではないのですか?

バグではありません。所得税法施行令第118条と租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-14に基づく、税法上の正規の処理です。2007年1月4日以降、業界全体でこの扱いに統一されています。

Q2. 楽天証券なら本当に得なのですか?

いいえ。表示が違うだけで、確定する税額は変わりません。楽天証券も譲渡益税の計算では切り上げ後の単価を使い、年間取引報告書にもその数値が記載されます。

Q3. 受渡金額まで101円で計算されていませんか?

されていません。受渡金額は約定単価100.5円で正しく計算されます。100株なら10,050円です。Yahoo!ファイナンスのQ&Aでも「受渡金額はちゃんと約定単価で計算しますから安心して下さい。そうじゃないと詐欺になりますから」と回答されています。

Q4. 手数料が無料でも切り上げは起きますか?

起きます。100.5円という約定単価そのものに1円未満の端数があるためです。ゼロ革命で手数料が0円でも、100.5円→101円の切り上げは発生します。

Q5. 買った当日と翌日で取得単価が変わったのですが?

仕様です。SBI証券のFAQには「取引日における『特定預り』の取得単価は、約定日ベースでの取引順で計算を行っております。そのため、日計り取引を行った場合、日中に表示されていた移動平均価格と取引終了後の夜間処理で算出された移動平均価格が異なる場合がございます」と記載されています。同一受渡日に売却後の再買付があった場合、約定日当日は「売却→買付」の実際の順序で計算されますが、翌日には特定口座の特性上「買付(保有分)→買付→売付」の順で再計算されます。

Q6. 切り上げの影響を最小化する方法はありますか?

構造上、完全に避けることはできません。ただし1株あたり最大でも1円未満という上限があるため、株価が高い銘柄ほど相対的な影響は小さくなります。100円の株なら約1%、10,000円の株なら約0.01%です。

Q7. 確定申告のときはどちらの数字を使えばいいですか?

特定口座を使っているなら、年間取引報告書に記載された数値(切り上げベース)をそのまま使います。一般口座で自分で計算する場合も、通達に従って1円未満は切り上げます。判断に迷うケースでは税務署または税理士にご確認ください。

9. まとめ

長くなりましたので、要点を整理します。

SBI証券のPTSで100.5円が101円と表示されるのは、約定単価と取得単価という別々の数字を見ているからです。取得単価は「(約定単価×株数+手数料)÷株数」で計算され、1円未満は切り上げられます。この切り上げは所得税法施行令第118条と租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-14に根拠を持ち、SBI証券だけの独自ルールではありません。

楽天証券で小数点まで見えるのは、同社が切り上げ前の数値を表示する仕様を選んでいるからです。マーケットスピードIIやウェブの実現損益画面には「平均取得価額小数表示」という切替スイッチが用意されており、税法上の損益と実際の損益を見比べられます。ただし税金の計算そのものは、SBI証券とまったく同じ切り上げ後の単価で行われています。

そして肝心の損得ですが、切り上げはむしろ納税者に有利に働きます。取得単価が高く記録される分、売却時の譲渡益が圧縮され、税額が下がるからです。SBI証券の公式例では約1,922円、PTSの100.5円×1万株のケースでは約1,015円の税負担軽減に相当しました。

PTSの0.1円刻みは、東証よりはるかに細かい価格で売買できるという明確なメリットの裏返しです。細かく刻めるからこそ端数が生まれ、税法の整数丸めとぶつかる。この構造さえ把握しておけば、保有証券一覧の「101円」は不安の種ではなく、税務用に整えられた数字が正しく機能している証拠として読めるようになります。

夜のPTSで拾った0.1円の有利。それは画面上ではいったん消えたように見えて、確定申告の段階できちんと帳尻が合っています。数字の見え方に振り回されず、取引履歴の約定単価という「本当の数字」を軸に、これからも冷静に取引を続けてください。

参考・出典

SBI証券「実際に買い付けた価格より単価が高く表示されていますがなぜですか」/「買付した価格(約定単価)と取得価格がなぜ違うのか教えてください」/「取得価額の算出方法」/「『特定預り』・『NISA預り』の『取得単価』について」/「呼値・制限値幅について」/「PTS取引のサービス概要」/楽天証券「【特定口座】小数点株価を考慮した実現損益の表示に対応」/「乗り換え売買(平均取得価額の計算方法)」/「PTS取引のサービス概要」/マーケットスピードII オンラインヘルプ「実現損益」/日本取引所グループ「呼値の単位」/国税庁 租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-14、37の11の3-1/所得税法施行令第118条(e-Gov法令検索)

本記事は制度の解説を目的としており、投資勧誘や税務相談を目的とするものではありません。個別の税務判断については税理士等の専門家にご確認ください。手数料等の条件は2026年8月時点で公表されている内容に基づいており、変更される場合があります。

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