朝晩が急に冷え込んできたある朝、エンジンをかけたらメーターに見慣れないオレンジ色のマークが点いていた。こうした経験は珍しくありません。くるまのニュースは、2022年10月上旬の寒暖差が大きかった時期に、空気圧センサーの警告が点いたという声が相次いだことを紹介しています。ある人は、前日の夜まで問題がなかったのに、翌朝の始動時に突然点灯したそうです。知り合いの整備士に聞くと「秋は寒暖差で空気圧が急に下がり、センサーが反応することがある」と言われ、空気を補充したら警告灯は消えたといいます。
季節の変わり目に起きるこの現象は、パンクではなく、空気の性質によるものです。この記事では、その仕組みと、季節ごとに気をつけたいポイントを順に紹介します。
気温が10℃下がると空気圧は約10kPa下がる
タイヤの空気圧は、気温が10℃下がるとおよそ10kPa下がり、10℃上がるとおよそ10kPa上がる、というのが定説です。kPa(キロパスカル)は空気圧の単位で、車の指定空気圧はこの単位で表示されています。
この数字の背景には「シャルルの法則」があります。気体は温度が下がると縮み、温度が上がると膨らむという法則です。イエローハットのコラムでは、温度が1℃上がるごとに、気体の体積が0℃のときの約273分の1ずつ増えると説明されています。
実際に計算してみましょう。エアゲージに表示される数値は、まわりの大気圧(約101kPa)との差です。そのため、タイヤの中の本当の圧力は「ゲージの数値+約101kPa」になります。指定空気圧が230kPaの車なら、タイヤ内の圧力は約331kPaです。この空気を20℃から10℃に冷やすと、変化はおよそ331kPa×10÷293(20℃を絶対温度で表した値)で、約11kPaになります。「10℃で約10kPa」という目安は、おおむね計算どおりだとわかります。
数字だけを見ると、わずかな変化に感じるかもしれません。ただ、ベストカーWebは、一般的な乗用車の指定空気圧は220〜240kPaなので、気温が10℃下がるだけで5%ほど低下する可能性があると指摘しています。
季節の変わり目は「二つの低下」が重なる
空気圧が下がる理由は、気温だけではありません。タイヤに入れた空気は、何もしなくてもゴムを通り抜けて少しずつ抜けていきます。日本自動車タイヤ協会(JATMA)の調べでは、乗用車のタイヤの空気圧は1カ月に5%程度、自然に下がります。
ここで、夏から秋への変わり目を例に考えてみましょう。真夏の昼に指定空気圧ぴったりに入れたとします。そのまま2カ月ほど点検しないと、自然に抜ける分が積み重なります。そこに秋の朝の冷え込みが加わるので、気温と自然低下という二つの要因が同じ方向に重なるのです。
JATMAが2015年から2019年に高速道路で行ったタイヤ点検では、平均して4台に1台が指定空気圧を下回っていました。気づかないまま空気圧不足で走っている車は、決して少なくありません。
空気圧が下がると何が起きる?燃費と安全への影響
空気圧不足の影響でわかりやすいのは燃費です。JAFが2021年に行ったユーザーテストでは、同じ車種3台の空気圧を変えて走らせ、燃費を比べました。適正値と比べて、空気圧を30%減らした車は平均4.6%、60%減らした車は平均12.3%燃費が悪化しています。坂道をニュートラルで惰性走行させた試験では、止まるまでの距離が、適正値の車で90.1m、30%減で83.5m、60%減で62.2mでした。タイヤがつぶれて変形するほど、走るためのエネルギーが熱として失われるためです。
JATMAの資料にも、適正値より50kPa不足したときの燃費の悪化率が載っています。市街地で2.5%、郊外で4.3%、高速道路で4.8%です(出典は省エネルギーセンター)。
安全面への影響はさらに深刻です。空気圧が足りないとタイヤが大きくたわみ、異常な熱を持ちます。その結果、タイヤ内部がはがれる「セパレーション」や、タイヤの両肩だけがすり減る偏摩耗が起きやすくなります。高速道路で起きやすいのが「スタンディングウェーブ現象」です。空気圧が低いまま高速で走ると、タイヤの接地面の後ろ側が波打つように変形し、最悪の場合はバースト(破裂)につながります。
「冬は高め」「夏は下げる」は正しい?
サジェストには「冬 高め」「夏 下げる」といった言葉が並びます。季節に合わせて空気圧を変えるべきか、気になっている人が多いようです。
結論から言うと、季節ごとに設定値を変える必要はありません。モーターファンの記事は、季節に応じて空気圧を調整する必要はなく、1年を通して指定空気圧に合わせるのが基本だとしています。自動車メーカーが決めた指定空気圧は、季節や場所、走り方の違いも考えたうえで設定されているからです。
特に「暑いから空気を抜く」のは避けたい対応です。昼の高い気温に合わせて空気圧を下げると、夜間や早朝に気温が下がったとき、空気圧が不足してしまいます。JATMAも、走行中の発熱で上がった分の空気は抜かないよう呼びかけています。タイヤが冷えれば、空気圧は元に戻るからです。
一方、「少し高め」には根拠があります。JATMAは、空気圧を指定空気圧から0〜+20kPaの範囲で確認・調整するよう案内しています。自然に抜ける分や冷え込みによる低下を見込んで、指定値より最大20kPa高めにしておくのは、この範囲に収まる考え方です。ただし、入れすぎも良くありません。空気圧が高すぎると、乗り心地が悪くなったり、接地面の中央だけがすり減ったりします。上限は「指定値+20kPa」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
スタッドレスタイヤに履き替える場合も、タイヤのサイズが同じなら、夏タイヤと同じ指定空気圧に合わせます。イエローハットやオートバックスのコラムでも、スタッドレスだから高めや低めにする、という考え方は誤りだと説明されています。
春と秋、それぞれの注意点
秋から冬にかけて
空気圧の変化が問題になりやすいのはこの時期です。日に日に気温が下がるので、夏に入れた空気圧のままだと、朝の冷え込みで一気に不足することがあります。最初に肌寒さを感じた週に一度点検し、そのあとも月1回のペースを守るのが現実的です。スタッドレスタイヤに履き替えるときは、保管中にも空気は抜けているので、装着した日に空気圧を測りましょう。
冬から春、春から夏にかけて
気温が上がると、空気圧は自然に上がっていきます。数値が高めに出ても、入れすぎによるものでなければ心配はいりません。注意したいのは、真夏に車を長く動かさない場合です。モーターファンは、空気圧不足のまま長く停めておくと、接地面が平らに癖づいたり、紫外線の影響も重なって側面にひびが入りやすくなったりすると指摘しています。長期間乗らない予定があれば、空気圧を少し高めにしておき、ときどき車を動かすとよいでしょう。
空気圧警告灯が点いたときの対処法
最近の車には、タイヤの空気圧低下を知らせる警告灯を備えたものが増えています。香川トヨタのスタッフブログによると、寒くなるとこの警告灯についての問い合わせが毎年増えるそうです。特に、冷え込みの強い朝に点きやすいといいます。
同ブログでは、点灯したときの手順を次のように紹介しています。まず、慌てずに安全な場所へ車を停めます。次に、車が傾いていないか、ガタガタした振動がないか、ハンドルが取られないか、1本だけ極端につぶれていないかを確認します。パンクが疑われるときは走らずに販売店へ相談し、そうでなければタイヤが冷えた状態で指定空気圧まで空気を入れる、という流れです。
寒さが原因なら、空気を入れれば警告灯は消えます。ただし、補充しても短い期間でまた点く場合は、釘が刺さっている、バルブが劣化しているなど、ほかの原因も考えられます。その場合は点検を受けると安心です。
正しい測り方は「冷えているとき」がポイント
ドア付近のラベルに書かれた指定空気圧は、タイヤが冷えた状態(冷間時)での値です。JATMAも、走る前のタイヤが冷えているときに測るよう案内しています。
とはいえ、多くの人はガソリンスタンドまで車で行ってから空気を入れるはずです。ENEOSの予約サイトでは、片道3km以内のスタンドで入れるか、走ったあと2時間以上冷ましてから測る方法を紹介しています。遠くのスタンドで入れるしかない場合は、タイヤが温まって数値が高めに出ることを考えて、少し高めに合わせておきましょう。モーターファンの記事によると、ミシュランは、タイヤが温まっているときは指定空気圧に30kPaを足した値に合わせ、冷えてから測り直すよう勧めています。
タイヤの状態を目で見て判断するのは難しいため、必ずエアゲージで測ります。特に、側面の薄い扁平タイヤは、空気が抜けていても見た目でほとんどわかりません。測り終わったら、バルブのキャップを必ず閉めましょう。泥水が入ると空気漏れの原因になります。トランクに積んだ応急用タイヤも忘れずに確認してください。JATMAが示す例では、応急用タイヤの指定空気圧は420kPaと、通常のタイヤよりかなり高めに設定されています。
窒素ガスは季節の変わり目の対策になる?
空気圧を保つ方法として、窒素ガスを入れるという選択肢もあります。ブリヂストンのタイヤオンラインストアによると、窒素は酸素よりタイヤから抜けにくいため、空気圧が安定しやすいとされています。
ただし、窒素を入れても点検が不要になるわけではありません。補充は有料のことが多く、対応している店舗も限られています。普通の空気を足すと、窒素の効果は薄れます。ちなみにイエローハットでは、窒素ガスの充てんを1本税込550円から行っています(同社コラム掲載時点)。点検の回数を減らしたい人には一つの方法ですが、月1回の点検に代わるものではない、と考えておきましょう。
衣替えのついでにタイヤもチェック
季節の変わり目に空気圧が下がるのは、空気が冷えて縮むからです。目安は、気温10℃につき約10kPa。そこに月5%ほどの自然低下が加わります。対策は、指定空気圧を基準に0〜+20kPaの範囲で合わせ、冷えた状態で月1回測ることです。季節によって設定値を変える必要はありません。
上着を厚手のものに替えたら、ついでにタイヤもチェックする。そんな習慣を持つだけで、秋の朝に警告灯を見て慌てることは少なくなるはずです。

