アメリカのニュースで「今日は95度」と聞いて、ぎょっとした経験はありませんか。あるいは海外レシピの「Bake at 350°F」で手が止まった人もいるでしょう。数字そのものは単純でも、体感とつながらないと判断に使えません。
この記事では、気温・体温・調理という3つの場面ごとに対照表を用意しました。あわせて、電卓なしで見当をつける方法と、そもそもなぜ2種類の目盛りが並び立っているのかという背景も紹介します。
まずは結論:換算式はこの2本だけ
換算に使う式は、たった2本です。
- 摂氏 → 華氏:°F = °C × 1.8 + 32
- 華氏 → 摂氏:°C = (°F − 32) ÷ 1.8
1.8という数字は9/5と同じで、水の凝固点から沸点までを摂氏が100等分、華氏が180等分していることから来ています(180 ÷ 100 = 1.8)。日本語版・英語版Wikipediaの「華氏」項目、および国内メーカーの温度換算資料でも、この式が共通して示されています。
なお、日本の計量法では華氏の正式名称は「カ氏度」と定められており、記号は「°F」です。温度の間隔を指す「カ氏度」と、目盛り上の温度を指す「カ氏温度」は本来別概念ですが、日常ではほぼ区別されていません。
温度変換ツール(℃ ⇔ °F)
気温の対照表(−40℃〜50℃)
旅行や海外の天気予報で使う範囲をまとめました。華氏の値は小数第1位まで、摂氏は日常で使う刻みにしています。
| 摂氏(℃) | 華氏(°F) | 体感の目安 |
|---|---|---|
| −40 | −40.0 | 摂氏と華氏が一致する唯一の点 |
| −30 | −22.0 | 極寒。屋外活動は要防寒装備 |
| −20 | −4.0 | 真冬の北海道内陸部 |
| −10 | 14.0 | 厳しい冷え込み |
| 0 | 32.0 | 水が凍る温度 |
| 5 | 41.0 | 厚手のコートが必要 |
| 10 | 50.0 | 上着が要る肌寒さ |
| 15 | 59.0 | 春先・秋口の陽気 |
| 20 | 68.0 | 過ごしやすい。室温の標準域 |
| 25 | 77.0 | 半袖で快適 |
| 30 | 86.0 | 夏日を超えた暑さ |
| 35 | 95.0 | 猛暑日の基準 |
| 40 | 104.0 | 危険な酷暑 |
| 45 | 113.0 | 砂漠地帯の日中 |
| 50 | 122.0 | 屋外活動は極めて危険 |
逆引きも載せておきます。アメリカの天気アプリを見るときはこちらが便利です。
| 華氏(°F) | 摂氏(℃) |
|---|---|
| 0 | −17.8 |
| 10 | −12.2 |
| 20 | −6.7 |
| 30 | −1.1 |
| 32 | 0.0 |
| 40 | 4.4 |
| 50 | 10.0 |
| 60 | 15.6 |
| 70 | 21.1 |
| 80 | 26.7 |
| 90 | 32.2 |
| 100 | 37.8 |
| 110 | 43.3 |
| 120 | 48.9 |
| 212 | 100.0 |
表を眺めると、華氏の0〜100がちょうど「かなり寒い」から「かなり暑い」までを覆っていることに気づきます。英語版Wikipediaも、20世紀初頭のHalseyとDaleが「華氏は温帯の屋外気温を語るのに直感的で、100°Fが暑い夏の日、0°Fが寒い冬の日にあたる」と指摘した点を紹介しています。アメリカで華氏が生き残っている理由の一つが、この体感との相性の良さです。
ちなみに日本語版Wikipediaは、およそ「61°F → 16℃」「82°F → 28℃」のように十の位と一の位を入れ替えると近い値になる組み合わせがあると紹介しています。ただし成り立つのは気温帯の一部だけで、すべての数字で使える裏技ではありません。
体温の対照表(発熱の判断に)
アメリカの体温計や病院の指示は華氏表示です。渡航中に体調を崩したときのために、0.5度刻みで押さえておくと安心できます。
| 華氏(°F) | 摂氏(℃) | 目安 |
|---|---|---|
| 97.0 | 36.1 | 平熱の範囲 |
| 98.0 | 36.7 | 平熱の範囲 |
| 98.6 | 37.0 | 古くから「平熱」とされてきた値 |
| 99.0 | 37.2 | やや高め |
| 100.0 | 37.8 | 微熱 |
| 100.4 | 38.0 | 発熱の目安としてよく使われる |
| 101.0 | 38.3 | 発熱 |
| 102.0 | 38.9 | 発熱 |
| 103.0 | 39.4 | 高熱 |
| 104.0 | 40.0 | 高熱。受診が必要 |
「平熱98.6°F」は、じつは見直されている
この98.6°F(37.0℃)という数字は、1851年にドイツの医師カール・ブンダーリッヒが定めたものが150年以上使われ続けてきました。ところが2020年、スタンフォード大学医学部のジュリー・パーソンネット教授らのチームが、南北戦争期の退役軍人記録から2010年代の外来データまで、のべ67万7423人分の体温を解析した結果を発表しています(掲載誌はeLife)。
それによると、2000年代生まれの男性の平均体温は1800年代初期生まれより0.59℃低く、女性でも1890年代生まれと比べて0.32℃低いという結果でした。研究チームは、体温計の精度向上だけでは説明できないとしたうえで、衛生環境や医療の進歩によって慢性的な炎症が減ったこと、冷暖房の普及で体温調節の負荷が下がったことを理由に挙げています。2017年にBMJ誌で報告された研究でも、平均は97.9°F(約36.6℃)とされました。
体温の「正常値」は一つの固定値ではなく、平熱には個人差があります。数字を丸暗記するより、自分の平熱を知っておくほうが役に立ちます。
オーブン・調理の対照表
海外レシピで最も出番が多いのがここです。
| 摂氏(℃) | 華氏(°F) |
|---|---|
| 160 | 320 |
| 170 | 338 |
| 180 | 356 |
| 190 | 374 |
| 200 | 392 |
| 220 | 428 |
| 230 | 446 |
| 240 | 464 |
| 250 | 482 |
| 260 | 500 |
アメリカ在住者向けの生活情報サイト「アメリカ生活情報」でも、同じ換算表が公開されています。
逆に、アメリカのレシピでよく見る切りのいい華氏の値を摂氏に直すと次のようになります。
| 華氏(°F) | 摂氏(℃) |
|---|---|
| 300 | 148.9 |
| 325 | 162.8 |
| 350 | 176.7 |
| 375 | 190.6 |
| 400 | 204.4 |
| 425 | 218.3 |
| 450 | 232.2 |
「350°F」が定番なのは、摂氏に直すと約177℃。日本のレシピで頻出する180℃とほぼ重なります。つまり350°Fは180℃、375°Fは190℃、400°Fは200℃と読み替えれば、家庭用オーブンではまず問題になりません。オーブンは庫内の温度ムラが大きく、設定値どおりに焼き上がらないことも珍しくないからです。
電卓なしで見当をつける3つの方法
1. 「30引いて半分」(華氏 → 摂氏) 70°Fなら (70 − 30) ÷ 2 = 20℃。正確には21.1℃なので、誤差は1度ちょっとです。気温の話題についていくには十分でしょう。逆向きは「2倍して30足す」で、20℃ → 70°F(正確には68°F)となります。
2. 「2倍して30足す」の精度を上げたいとき 正確さを求めるなら、2倍ではなく2倍から1割引く、という手順を挟みます。30℃なら60から6を引いて54、そこに32を足して86°F。これは正確な値と一致します。
3. 基準点を3つ覚える −40°F = −40℃、32°F = 0℃、212°F = 100℃。この3点を軸に、10°Fの差が約5.6℃にあたると覚えておけば、表がなくてもおおよその位置関係をつかめます。
華氏はどこから来たのか
華氏の目盛りは、1724年にドイツ出身の物理学者ダニエル・ガブリエル・ファーレンハイト(1686〜1736)が提案しました。名前が「華氏」なのは、ファーレンハイトの中国語音訳「華倫海特」の頭文字「華」に、人名につける「氏」をつけたためです。同じ理屈で、セルシウスの音訳「摂爾修斯」から「摂氏」が生まれました。
ファーレンハイト自身が1724年に王立協会の紀要へ載せた論文によると、0度は氷と水と塩化アンモニウム(当時の呼び方で sal armoniac)を混ぜた寒剤の温度、96度は人間の体温付近に置かれています。氷と水だけの状態が32度でした。
彼はこの目盛りを、デンマークのオーレ・レーマーの温度目盛りをもとに組み立てています。レーマー度では水の凝固点が7.5度、体温が22.5度。これを4倍して分数を消し、さらに氷の融点を32度、体温を96度になるよう調整しました。32から96までの間が64(=2の6乗)になるので、目盛りを6回半分に割っていくだけで刻めるという、器具づくり上の都合があったわけです。
その後、水の凝固点32°F・沸点212°Fを固定点とする方式へ再定義されます。1776〜77年にヘンリー・キャヴェンディッシュらの王立協会委員会が凝固点と沸点を基準に採用したことが、この流れを後押ししました。この調整の結果、彼が96度としていた体温が98.6°Fにずれた、というのが「98.6」という半端な数字の正体です。
なお目盛りの由来には諸説あり、日本語版Wikipediaは4つの説を並べています。ダンツィヒ(現グダンスク)での1708〜09年の冬の最低気温を0度にしたという説も有名ですが、英語版Wikipediaはこのドイツ由来の逸話に「検証できず」の注記を付けています。話として面白い分、引用するときは断定を避けるのが無難でしょう。
摂氏は、最初は上下が逆だった
一方の摂氏は、スウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウスが1742年に考案しました。意外なのは、当初の目盛りが今とは上下逆だったことです。水の凝固点を100度、沸点を0度とし、氷点より冷えると101度、102度…と数字が増えていく仕組みでした。地上の気温がマイナスにならないという利点があったのです。
現在の向きに変わったのはセルシウスの死後です。ウプサラ天文台の解説は1744年に反転したとし、その功績はセルシウス本人、後任のモーテン・ストレーメル、計器職人のダニエル・エクストレームの3人によるものだと説明しています。一方、W. E. ミドルトンの1966年の論文はカール・フォン・リンネらが1752年までに改めたとしており、定説は一つに収まっていません。
呼び名も変わりました。もとは100分割を意味する「centigrade(百分度)」でしたが、1948年の第9回国際度量衡総会が「degree Celsius」を正式名称に選んでいます。SI接頭語のcenti(100分の1)と紛らわしかったことが理由の一つでした。
今の定義は、水ではなくボルツマン定数
学校では「水が凍る温度が0℃、沸く温度が100℃」と習います。ただし現在の定義は、水から離れています。2019年5月20日に施行されたSIの定義改定により、ケルビンはボルツマン定数を 1.380649×10⁻²³ J/K と定めることで決まる量になりました。セルシウス温度は「ケルビンで表した熱力学温度の値から273.15を引いたもの」、華氏温度は「ケルビンで表した熱力学温度の値の1.8倍から459.67を引いたもの」と、いずれもケルビン経由で定義されています。
その結果、面白いずれが生じています。現在の国際温度目盛ITS-90では、標準気圧(101.325 kPa)における水の凝固点は0.002519℃、沸点は99.9743℃。きっかり0と100ではありません。定義の出発点が水から物理定数へ移った名残です。
華氏を使っている国は、いま何か国あるのか
英語版Wikipediaによれば、日常生活で華氏を使うのはアメリカ合衆国とその領土、西太平洋の自由連合諸国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)、ケイマン諸島、リベリアです。アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネイビス、バハマ、ベリーズ、英領ヴァージン諸島、モントセラト、アンギラ、バミューダなどでは摂氏と併用されています。
1960年代までは英語圏の多くで華氏が標準でしたが、60年代後半から70年代にかけてメートル法化が進み、アメリカを除くほとんどの国が摂氏へ移りました。カナダは天気予報こそ摂氏ですが、オーブンの表示は今も華氏がほとんどだといいます。イギリスも基本は摂氏で、タブロイド紙が高温をセンセーショナルに伝えたいときだけ華氏を使う、という傾向が指摘されています。「34℃」より「94°F」のほうが大きく響く、というわけです。
日本でも華氏が完全に排除されているわけではありません。計量法の附則第5条第2項により、限定された取引・証明の場面では「当分の間、法定計量単位とみなす」とされています。輸入家電のデジタル表示が華氏初期設定になっていることがあるのも、この延長線上の話です。
最後に、表記の小ネタをひとつ
Unicodeには「℉」(U+2109)という1文字の記号があります。ただしUnicode標準は、この文字ではなく「°」+「F」の並びを推奨しており、検索では両者を同一に扱うべきだと明記しています。旧来の文字コードとの互換のために残されている文字なので、Webに書くなら「°F」と打つほうが安全です。
摂氏と華氏は、どちらが優れているという話ではありません。水を基準に据えた摂氏は科学に向き、人の体感を0〜100に収めた華氏は日常会話に向く。生まれた目的が違うのだと分かると、換算表の数字も少し違って見えてくるはずです。

